(労務紛争)労働者からの未払残業代請求に対して会社側が検討すべき反論

近年において未払残業代請求は増加する一方です。

残業代請求は,時間外労働・休日労働・深夜労働による割増賃金を請求するものです。原則として1週間につき休憩時間を除いて40時間を超えて労働させてはいけませんし(労働基準法32条1項),1日につき休憩時間を
除いて8時間を超えて労働させてはいけません(同条2項)。もっとも,36協定を労働者の過半数の代表者と結んでこれらの規制を超えて労働させることができます(同法36条1項)。そして,規制を超えた労働に対しては時間に応じた割増賃金を支払わなければなりません(同法37条1項但書,同施行規則20条1項)。

この割増賃金を支払っていないから支払えというのが未払残業代請求となります。
以下の反論は,状況に応じて使い分けることらになります。

反論1 相手方は労働者ではない
 相手方と会社が結んだ契約が,雇用契約ではなく請負契約や委任契約であり,労働基準法の適用を受けないという反論になります。
 相手方が労働者であるか否かは,
  ・相手方に仕事の依頼を断る自由はあったか
  ・会社からの指示に従う義務がどれだけあったか
  ・勤務場所,勤務時間において相手方に裁量があったか
 等が考慮要素となりますので,これらの要素に照らして有効な反論をできるか検討していくことになります。

反論2 1時間当たりの賃金額が間違っている
 未払賃金を計算するには,①1年間の月平均所定労働時間を算出したうえで,②所定賃金をその労働時間で割って1時間当たりの賃金を算出します。この1時間当たりの賃金にそれぞれ割増率をかけて未払賃金を計算します。
 しかし,これは複雑な計算なので労働者に有利に計算されていても一見しては分かりません。
 詳細な計算方法は,労働基準法施行規則19条に書かれていますのでご覧になってください。
 また,各種手当が②の所定賃金に含まれているかについては同じく労働基準法施行規則21条に書かれています。

反論3 自宅への持ち帰り仕事を命じていない
 これは労働者から「会社での時間だけでは仕事が終わらなかったから自宅で残業した」という主張がなされたときにする反論です。
 そもそも自宅で仕事をしていたと証明することは難しく,反論するまでもないこともありますが,念のためきちんと反論してください。
 もっとも,ノルマを課すなどしてとても時間内では終わらないことが明白になれば,会社にとって不利になりますので,適宜「ノルマは課していない」「あくまで努力目標であった」「ほかの社員は時間内に終わらせている」と
反論していきます。

反論4 相手方主張の労働時間が誤っている
 タイムカードがあることが多いので,タイムカードが証拠としてあればそこに打刻されている時間が労働時間となります。
 また,単に「労働時間が誤っている」という反論するだけでは足りません。なぜなら,裁判所は,会社には労働時間を厳格に管理する義務があり,労働者側に全面的に労働時間の証明責任を負わせることは不公平と考えているからです。そのために,「何時から何時まで労働者はその時間を自由に使えたから労働時間に含まれない」「何時から何時までは1年間のうち2,3回しか起こらない緊急事態にのみ対応するべき時間であって,基本的には自由時間であった」等と反論すべきです。

反論5 相手方は管理監督者である
 申立人が管理監督者であれば,会社は残業代を払わなくてもいいことになります(同法41条2号)。ただし,深夜労働については割増賃金を払う必要があります(最高裁平成21年12月18日)。
 管理監督者か否かは経営者と一体的であるかがポイントですが,次のような基準が重視される傾向にあります。
  ・管理職手当が支給されていて割増賃金と比較して金額的に遜色のないこと
  ・出退勤に裁量があること
  ・統括的な立場にあること
  ・部下に対する人事,労務管理上の裁量を有していること

反論6 残業代は既払である(固定割増賃金)
 毎月の給与により残業代に代えて定額の手当を支給しているため残業代は既に支払われており,支払うべき残業代はない,あるいは減額を主張することになります。
 しかし,注意点としては,以下の通りです。
 ① 時間外労働に対して定額手当を支給する場合に定額の手当が時間外手当に該当するか自体が争われることがあります。                                                  
 ② 時間外手当を基本給に組み込んで支給する方法の場合
   最高裁昭和63年7月14日判決によると,時間外手当を加えて基本給を決定したとの主張に対して,基本給のうち時間外手当に当たる部分を明確に区分して合意した場合のみに当該主張を認めるとしています。
   基本給部分と時間外手当部分を明確に区分していない場合は残業代は既払であるという主張は通用しません。

当事務所では,労働者からの未払残業代請求の主張に対して,会社側としてはどのように対応するべきかのご相談が可能です。